私設現代宗教研究所ブログ

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猊下と台下

高僧の敬称には「猊下」や「台下」を使うが、どういう使い分けをされているのだろうか。私はてっきり「猊下」を上位として、「台下」を次位とすると思っていたのだが、そうとも限らないらしい。


例えば浄土宗の場合、宗派のトップ浄土門主を務める総本山知恩院の住職(門跡)には「猊下」を使い、他の大本山金戒光明寺善光寺大本願など)の住職(法主)には「台下」を使う。だから、「猊下」と「台下」を、「陛下」と「殿下」と似たような関係と思っていた。


しかし、浄土真宗の場合、浄土真宗本願寺派では門主を「猊下」とし、真宗大谷派では門首を「台下」とする。もし両者に序列の上下があるなら、大谷派は納得いかないだろう。大谷派系の諸宗派もトップの敬称を「台下」とする。(現在ではあまり使わないが、全く使わないわけではない)


さらに各国元首の敬称を記した外務省資料によるとバチカン市国(法王聖座)について法王(教皇)の敬称を「台下」とし、枢機卿が就く国務長官(首相に当たる)の敬称を「猊下」とする。浄土宗の例とは逆転しているように思える。


日本の仏教に戻って他の宗派をみると、一つの宗派内に「猊下」の敬称を持つ職が複数ある例が少なくない。管長だけに限らないのだ。天台宗では「天台座主」以外にも、門跡寺(妙法院門跡、輪王寺門跡など)やそれに継ぐ寺院(善光寺大勧進など)でも「猊下」を使用する。日蓮宗ではなんと約50寺ある総本山・大本山・本山の全てで使う。また真言宗各派の総大本山でも「猊下」とお呼びする。臨済宗曹洞宗大本山も同様だ。これらの宗派では敬称を「台下」とする職はないのかもしれない。


すると「台下」を使う浄土宗や真宗大谷派の例が各宗派の中でむしろ例外的にも思える。「猊下」と「台下」に序列の上下がないとしても、なぜその敬称が使われたのだろうか。なぜこのような用法が生まれたのだろうか。先に書いたバチカンの例もなぜこの訳語が当てはめられたのだろうか。


調べる力も時間もないが、何かのことで古い資料を読んだ時にヒントが見つかると嬉しい。


なおローマ教皇(法王)に関連して言えば、日本のカトリック中央協議会では、外務省が使用する「台下」ではなく、「聖下」という独自の言葉を創出して使用している。字義から推測するに、「猊下」が高僧がすわる場所のことを猊座と呼んだことに由来するのに擬えて教皇の座である聖座の意を込めたようだ。